あそけし

メイドブログ

ゆられゆらめく

メイドカフェ「銀河系の中心にある肝臓」は本日も営業中だ。そこで雇われているメイドの一人に◒ ⳧という名前の娘がいて、彼女はその名前の示すがごとく実際上一つの記号であり、また記号でしかなかった。出勤するべく入り口のドアを開けると小気味よいベルの音が短く響く。すると、恐らくは扉の上部にはりついていたのだろう、扉の開閉に伴って身体を支える腹脚の吸盤が外れ、バランスを崩した青虫が上から降ってきて今度はその真下にいた◒ ⳧にくっついてしまった。したがって「🐛は◒ ⳧の要素」となったのだから🐛∈◒ ⳧という形でこの事態を表すことが出来るだろう。虫嫌いの◒ ⳧はたまらず悲鳴をあげ、青虫を振り払った。その刹那ーーー彼女は瞬時に○p●とclcの部分とに分離し、前者は心臓に結び付けられた地球儀へ、後者は鮮やかな装飾が施されていて見る者全てを魅了するほどに絢爛で、蝿をかたどった意匠が凝らされたカトラリーへと変容した。不条理極まりない、この惨憺たる結末に通常の良識を持ち合わせる人々なら憤慨せずにはおれないだろう。通常の良識とはつまり死を忌避し、それらと相伴う汚穢や汚濁といったものを、少なくともおのれの眼球で狡猾にも視認することの可能な抜き差しならない狭い範囲においてはこれらを根こそぎにしその代わりに昇り立つ香りの永遠に切れることのない満ち足りた黄金郷をば築き上げんといったような理念に基づくものである。それはひとまず置いておくとして、地球儀の方に焦点を当ててみることにする。類似性という観点から見れば地球と心臓とには密接な関係が認められるのは明白であって、双方は互いに影響を及ぼしあうのである。しかしこれではまだ粗雑にすぎる。身体器官の一つ一つをも数に含め、例えば遠くに聳えるあの山は膵臓を、視野一杯に広がる草原は胃を、ボルネオ島の穏やかな気候は精神の快調を、赤道直下の地域一帯は仙骨神経叢と科学的に未だ解明されていない人体の神秘をそれぞれ象徴しているのだとしよう。対応関係は他の全ての臓器に、人体を構成する全ての要素に与えられることになる。するとここで不和が生じる。一方の象徴物のいわば総体である地球には心臓が対応しているというのに、他方地球の諸要素と人体の全要素が関係付いているまさにその事実から総体としての人体それ自体が得られるからである。事態をより的確にかつ簡潔に言い表してみよう。心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓に包摂される人体の中にある心臓の….とまあこういうことだ。適切に、順に展開を辿れば恐らくは判明する通り、この展開には何らかの思惑があってか否か、ないがしろにされている一つの事実がある。それが判明するやいなや、堂々めぐりはたちまち解消されるとしたものだが、持続する強迫思考の渦中にあっては目下の問題を解決する見通しを立てることすら出来ないのもまた事実だ。欠けた最後の一欠片、堰き止められてそこから動けない、思考が綻び脳髄が霧散する、桟橋のにおい、生のうねり、時系列順に並べられたアップルパイ...... ○p●の意識は途絶えた。
他方clcつまりカトラリーはなおもこの世のものとは思えぬ妖艶な光沢を放ち、その場に居合わせていたご主人様達のうちに奇妙な錯覚を呼び起こしていた。彩飾に用いられた鮮烈な赤色の釉薬は視神経を快く楽しませ、今や悦楽の境地にある魅了されし者どもの渇望するところはただ「赤」のみである。しかし度を超えたあまりの快楽に脳がすっかり萎縮してしまい、次第に浄福感が薄れてゆくと、内側から抉られるような疼痛感が生じてきて、至極なる享楽状態から急転直下、地獄めいた激烈な痛みは人々を蛮行へと駆り立てた。狂気に囚われた人達の中には我先にとカトラリーを手に取りそのまま躊躇なく喉に突立てる人がいて、またある者は両の眼をくり抜いた。常軌を逸した力を加え肉叩きを扱うかのごとく自らの顔面を原型のとどめぬまでに打ちのめしたご主人様もいた。彼らは息絶えてもなおカトラリーを硬く握りしめたままでいて、血みどろの肉塊と金属質の荒々しく冷たい衝迫とが空虚の地平において結び付くならば、あまねく大地に人間の歯が花咲くこととなるのでしょうね。素直に恐怖です。
一方魅了による精神干渉を受けなかったメイド達は銘々思うままに独り言をいっている。
「◒ ⳧が地球儀とカトラリーに分裂しちゃった」
「また朝が来た。憂鬱だなあ」
「夢の終わりはいつもこんなだし」
「もちろん、というか見てわからない?惨劇だよ」
「店、汚れちゃったね」
「最も天国に近い場所で、苦悶の表情を浮かべて死ぬなんて」
「もうまず円形って時点でアウトでしょ、それに右側の黒い円は憎悪に満ちていて恐怖だし」
「蝿から逃れようとするな。」
「また朝が来た。憂鬱だなあ」

目の前のドアを開けたばかりにこれから起こるであろうこと、ここまでの顛末が予見され、◒ ⳧はドアノブに掛けかけた手を慌てて引っ込めた。店の前まで来といてだけど今日はメイドの仕事はお休みしよう。理由を言っても頭がおかしくなったと思われるだけだろうから突然発熱したことにして、後日ささやかなお菓子でもみんなに配ればそれで埋め合わせがつくだろうと。しかしよくよく考えてみれば初めからおかしいのだ。見ることによってその事実が無くなることによって見ず、見ぬことによってその事実が現実となり見ることとなる……反復される衝迫、偽造された無限性の眩暈に埋め合わせなど存在しないのだ。